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描写のレッスン・・・『実況中継』 [課題―描写]

今週末のクラスから描写のレッスンを始めた。
今回は『実況中継』。 人の様子をまずは口頭で描写していく。

一番手は私。 クラスの中からモデルを一人選んで、その子の様子をどんどん言葉に置き換えていく。

「A君は机に突っ伏している。 左手の指先で自分の髪を一束つまみ、
うーん、そうだな、ひっぱるようにして触っている。
もう一方の手には、青いシャープペン。 軽くつかんで、あ、今、回し始めた。
肩が少し揺れている。 どうも笑っているらしい。 声を出さず、顔も上げず、A君は笑っている。・・・」

・・・というような感じで。 多少ずれはあってもいい。 とにかく黙らず、動きを捉えて言葉にする。

実況中継をされる方も、聞いている方も、けらけらと笑う。 
そりゃそうだ、やることすべて片っ端から描写されれば私だって照れくさい。
しかし、笑ってばかりでは授業にならない。 ここで少し気を引き締めて、動きを限定して描写してみる。 

例えば、椅子に座る。 単純な動作をして見せて、言葉に置き換える。
「椅子に座った。」・・・誰が、どんなふうに?
「先生が、ゆっくりと椅子に座った。」 いいね、様子を表す言葉が入った。別の表現を、次の人?
「先生が、音を立てずに座った」「上品ぶって座った」「手をひざにおいて、足をそろえて座った」
「スカートのすそを気にすることなく座った」
 そうそう! 同じ動作でも、言い表す方法は百万とあるよ。

どんどん探す。 比喩を用いたり、細かな動きを表したり。
こういうのでいいのか、とわかると子ども達の声も勢いがついてくる。

そこで、もう一度実況中継に戻る。 私がしていることを、できるだけ考え込まないで口頭で表す。
ひとり1分ほど。 顔の表情、手の動き、歩き方・・・表現のポイントがつかみやすいよう
はっきりとした動作を見せる。
その際、「~して、~で、」と続けてしまう人には、言い切る形を促し、
動作だけを言う人には、「どのように」を表す言葉を入れるよう励ます。

ひとり終わるごとに、その人がした工夫を皆に伝える。
リズムをほめたり、丁寧さを認めたり、「どんな」を表す表現を取り上げたり。
人の工夫を聞いて我が物とし、表現の幅を広げてもらうのだ。

 

一回りしてコツがつかめたのを確認したら、さて今度は・・・と、切り出す。
「一人ひとり話していると時間がなくなっちゃう。
 だから次は、紙の上で実況中継をしてもらうよ。
 まず、私がすることを見る。 それを憶える。 その後で、書く。
 私がすることは、10秒くらいのこと。 それを作文用紙半分以上に引き伸ばしてもらうよ。」

皆、うぇ~~~~っと声を上げる。 が、顔はもう勇んでいる。
視点をどこに置くのか、コツはもうわかったのだ。 
心はもう、できる!と言っている。

見せる動作は単純なものにしている。 今回は「本を読む」。
動きを見せてすぐに書いてもらってもいいのだが、取り組みやすいよう少し補助を入れる。
作文に写る前に私がした動作を分解して、ホワイトボードに書き出していく。
 ・廊下から部屋に入ってくる (どのように?) 
 ・椅子に座る (よいしょ、と言う)
 ・本を取り出す
 ・本を開く
 ・本を読み始める
これらの動作一つひとつを引き伸ばして書く。 すぐに次の動作に移らない。 とどまって描く。

 

実は、この「とどまって描く」というのは、とても難しい。
要点をまとめる活動ばかりしていると、どんどん先に流れてしまって踏みとどまることができない。

皆には、作文を書きなれていないと新幹線のような作文になるんだよ、と伝えた。
びゅんびゅん走ってすぐに目的地。 間のことはとんでしまって見ることができない。
だからそれよりも、鈍行列車に乗ったような作文にしよう、と言った。
周りの色も動きも見えるような、ちゃんと味のある作文にするんだ。 

作文の時間は10分から15分ほど。 しかし、時間内に最後まで書ききる必要はない。
途中の動作で時間がきてもいいので、とにかくできるだけ引き伸ばす。



ここでの作文は挑戦だよ、といつものセリフを口にする。
今日は描写のレッスンだから、やりすぎと思うくらいにやってみればいい。
試して、うまくいかなければ次に調整する。
やってみなくちゃ効果はわからないんだからね、とにかくこだわって書いてみようよ。 そう伝えた。

そんな私の言葉を聞きながら、皆、そういうものなのかな?という顔つきで書き始める。
書き始めたら、すぐに没頭。 頭の中でビデオを再生しながら言葉にしていく。

書き上げた作文は、読み上げる。 人の良い工夫を知ったら、もう一度違う動作で作文に向かう。
どの人も、二度目の作文は一度目のものより質が向上している。

 

中学生のクラスでも行った。
味のある描写をする中2男子が、今回も皆を驚かせた。
その箇所を少し引用する。

『(前略)・・・片手の五本の指をペッタリとくっつけ、めくっていく。紙が曲がりそうである。
数ページめくって、そのページにたどりつくと、目で字を追い始めた。目を上にしたり、下に動かしたりしている。
読んでいる最中も、本の端の方で、次のページをめくる用意をしている。
せん風機の音だけが、部屋の中を騒がしている。』

指先に注目して書いていたのに、突然最後に扇風機の音を入れて、静けさを強調した。
この“良い裏切り”に、皆が「うわ、やられた!」と、少し悔しそうな顔をした。

 

流れず、とどまる。 

幾度もいくども、皆に伝える。 ・・・そういう時間を持ってほしいと思うのだ。

 


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