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実況中継-トランプゲーム [課題―描写]

今週・来週といくつかのクラスで描写のレッスンをする。
こればレッスンだ。だから、わざと一つひとつの動作を引き伸ばして描く。
決してぽんぽんと話を前に進めてはいけない。

以前に実況中継をするように人の動きを描く課題を紹介した。基本的にはそれと同じだ。

まずは口頭で人の動きを描写してみる。
ポイントは、表情・姿勢・体の動きを「どのように」を表す言葉をつけて言うこと。
「大きく万歳をするように」「指先までぴんと伸ばして」「にっと笑いながら」「はずみをつけて立ち上がった」などのように、同じ動作を何通りもの言い方で表していく。
他の人がどこに目をつけて表現したかを知るのは、自分の幅を広げるよい機会だ。これはと思ったものは「どこがよいか」を伝えつつ、どんどん発表してもらう。

何に気をつけるべきかを捉えられたら、さて本番。今回は『ババぬきをする私たち』がテーマだ。
皆でババぬきをする。その様子を心のビデオに録画して、後で紙上で再生してもらうのだ。


隣の部屋に移動するところからスタート。
後で書かねばならないのだから、できるだけ皆の様子を見ながら動いてもらう。
歩き方や、座る位置も重要なポイントだし、交わす言葉も逃せない。
ババを見せ、シャッフルし、カードを配る。その短い動作の流れは、通常なら1行程度ですむところだが、あえて引き伸ばす。だから注意深く見ておくのだ。

「ええっ、おぼえてられないよ!」と、どの子も少し緊張気味。
いつもならあれこれ話すのに、話している間に忘れてしまうと思うのか、口数が少ない。それに私がどんどん話しかけていく。


いざカードを引くときになると、大抵の子は、様子を見ることなどすっかり忘れてババぬきに夢中になる。
「あぁ」とか「うぅ」とか言いながら、カードを引くたびに体をよじっている子もいるし、なぜか人にカードを引いてもらうときになると、首を前に突き出し猫背になり、小さく丸まっている子もいる。自分の体に注意が向いていない。だからおもしろい。それをみんな見ていられるかな、と思いながらゲームを進める。

ごく普通に行えば、ゲーム中は周囲を見ていないことが多い。
自分の手元に集中しやすいし、「どうやったらババを引いてもらえるか/引かずにすむか」を考えているから、「自分」が中心となる。
しかし、世界には自分だけがいるわけではない。他の人間の動きも書いてこそ、文章である。
自分の感覚も入れつつ、人の動きも描き出す。そうやって、空間や場面を作っていく。


書く前に、念のため私たちがした動作を確認する。

   ・隣の部屋に移動
   ・座る
   ・ババを確認
   ・カードを切る
   ・カードを配る
   ・カードを手に取り、同じ数のカードを捨てる
   ・じゃんけん
   ・ゲーム開始
   ・一番にあがったのは? 二番・三番・・・
   ・誰が負けたか

これら一つひとつの動作をできるかぎり見えるように描く。
座るときに、どの子がどんなふうに座ったか。誰が、どんな声で話したか。カードを切る手つきはどんなふうだったか。カードはどのような音を立てたか。
さらに細かく場面を区切っていって、人の姿と表情を「そのまま」書くようにする。
ゲーム終了までを時間内に書く必要はない。今日はレッスンだ。カードを配り始めるところで終わってしまってもいい。ゆっくりと細かく、映像化するように描くのを優先してもらった。


描写のレッスンを何度かしたことがある人は、コツをつかんでいる。隣の部屋に行くだけで原稿用紙1枚分を使い、まるまる3枚書いても「まだカード配っただけだよう!」と笑っている。
初めての挑戦の人は、それに比べるとジェット機なみに話の進みが速い。
実は、ある動作に留まって細かく書いていくのは、相当に難しい。慣れていないと、何に目をつけて書けばよいのかがピンと来ないのだ。

そこで、話の進みが速いな、と思った子の近くに行って、待て待て、とストップをかける。
そのとき○○さんは何してた? どんな声でどう話した? などとたずねて記憶を刺激する。何か言えたらそれを書いてもらう。ついでにそのことについてもう一文描写。一つの気付きを引き伸ばすやり方を口頭でまずは行う。そうして進め方のペースをつかんでもらう。


これはレッスンだ。
全ての作文において、全ての場面をこのように引き伸ばしていたら、読み手が飽きてしまう。
人と物、場面を描くコツがつかめたら、作文の一番の見せ場にこの描写を用いる。
映像化された文章は、人の共感を呼びやすい。
何より、描写した「人の動き」が「その人となり」を雄弁に語ってくれる。

豊かに描く力を養うための、一つのレッスン。
また数ヵ月後にテーマを変えて行うことにしている。


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