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熱血!運動会 [課題―描写]

「今日のテーマは『運動会』だ!」
「うぇーーー。」「えーもう書いたし。日記で。」文句を言われるのは承知のうえなのでかまわず続ける。

「9月は『様子を描く』ことを中心にやってきたよね。今日はその総仕上げ。
実際に体験したことを書く!
もちろん、ここで書く作文なんだから、一味違ったものにしてもらうよ。
ということで!まずは、こんなん書いちゃつまらんよな~、だめだよな~という作文例を挙げてみよーう!」

『だめな作文』と聞いて、にやりとする人が数人。
あ、やばいかも、という顔あり、そんなん書かないよ、という顔あり。

「よし、いくよ?
『朝起きました。いい天気でした。
学校に着きました。 入場門から入りました。 体操しました。
最初の競技が始まりました。 次に○○ありました。 次は××です。
そのあと自分の競技です。 どきどきしました。 勝ちました。 よかったです。
○○しました。 △△しました。 ごはんたべました。 おいしかったです。
応援合戦がありました。 リレーがありました。 赤が勝ちました。
負けて悔しかったです。』
ど----うだ!!すばらしいだろーーーう!」
皆、ケラケラ笑っている。 しかし少し身に覚えのある人もいるようだ。苦笑している。

「これじゃさ、運動会の栞かなにか見れば十分だよねえ。したことだけを並べているんだもの。
誰が書いても同じになっちゃう。 その人の姿が見えないなんて、つまらないじゃない?
これを私は『スケジュール作文』と名づける! ダメダメ作文その1である!」

「知ってるよ、だから書くことを一つに絞るんでしょ!」「見えるように書くんだよねえ。」と、合いの手が入る。
「その通り! さすが、わかってるねえ。
だから今回の作文は、数ある競技の中から、自分が参加した競技一つに絞って書く!
しかも、テーマは 『熱血!運動会』 なのだ!」
「熱血ぅ?」
「そうだよ。自分の熱い思いを読み手に伝える作文にしてほしいんだ。」
熱い思いねぇ、と困る顔がちらほら。 全員が運動会を好きではないのは当然。
活躍できなかった子もいれば、運動会なんてないほうがいいと思っている子もいる。
しかし、読み手にどんな思いを味わってもらいたいかを意識して書くことは、とても重要なことだ。
漫然と事実を書き並べることから脱却するためには、必要な意識なのだ。


「一つの競技のことを書く、といっても、単純に書けば『走った、勝った』だけだよね。
これを引き伸ばす。 前にもやったよね、場面を分解して『誰が・どのように・どうしたか』を明確に記すんだ。
例えば、徒競走。これを分解してみよう。 どうなる?」
「ええと、スタートに立つ。」
「おっと。飛ばしたよ。」 
「ええ?スタートの前? なんかある?」
「あるよ~。『並ぶ』」
「は? そんなところから?」
「そうだよ。だって、レースは走る前から始まっているじゃない?
並んで自分の出番を待っているときさ、もし走るのが嫌いな人だったらどう?
一組、二組と走っていくでしょ。 一歩ずつ前に詰めるよね。
あのときさ、『うわぁ、だんだん近づいてくる。 みんな速い。 どうしよう、走りたくないな。
隣の子なんて余裕だもんな。 なんであんなに普通の顔できるんだろ…』 なんて思わない?
みんなの歓声とか聞きながら、ここから逃げたいと思って空見たり、応援席見たりしないかなあ」
あ、という顔で皆こちらを見る。

「じゃあ、走るのが得意な子は? 今年こそ一番だ、早く走らせろ、なんて考えながら
先の組をじっと見たりしてるかもしれないよね。 走る前からすでにレースは始まっている。
一人ひとり違う思いを抱えているんだ。」

その通り!と鼻息荒くする人は走ることに自信のある人。 今もスタートラインに立っているかのよう。

「じゃ、分解するよ。 『並ぶ』。 入場門から入るところから入れてもいいけどね。
次は?『待つ』『番が来て、スタートラインに立つ』『よーい』、で 『間』 だ。」
「間?」 
「そう、『間』。 作文には『間』も大事。 よーい、からピストルがなるまでの 『間』。
このときが一番集中するよね。 だからこの『間』もしっかり書く。
次は? うん、『パーン』の合図でスタート、『走る』『走る』『走る』!」
「走る?そんなに?」
「そうだよー、だって走っているのも、飛び出したときと中盤じゃ気持ちも見えるものも違うでしょ。
スタートで出遅れて、隣の子に前に出られた、その背中とかさ。
もう少しで抜かす、というときの腕の振りとか。
あるいは、先頭を走っていたら、後ろから足音が近づいてくるのに気づくとか。
ドキドキしてしまうポイントっていくらでもあるよ。 だから逃さず書く。」

このあたりから、皆、何を書けばいいのかがイメージがついてきたようだ。 体が前のめりになっている。
目はこちらを向いているのに、私を見ていない。 数日前の自分の姿を追っている。 

「そして『ゴール直前』『ゴール!』 いいよね、もう書ける?」
「書く、書く、早く紙!」


9月の初級・中級クラスでは描写力を高めることに重点をおいて課題を用意した。
これはその最終回の様子。
気持ちを体の動き、顔の表情、もしくは背景で伝える。
『誰が・どのように・どうした』を意識しながら、「どのように」の部分をできる限り膨らます。
前の時間には上記のことを分けて行った。 今回はそれを総合して、体験を書くのだ。
いつもは書いている最中にあまり声かけをしないのだが、今回は描写の幅を広げるために例を多く挙げた。
演出して書くのだから、遠慮は要らない。 派手にどんどん付け加えてみればいい。 そう励ました。

出だしにも工夫してみようと、小3女子が書いたものを紹介した。
『私の目の前には、黄色のつなが一本まちかまえている。』
この始まりに負けないように、と言ったので皆必死だ。
だが、背伸びしたので面白い表現が多く生まれた。
読むと一緒になって走っている気にさせられた。 以下に少し紹介する。



『一番が終わった。二番が…三番が…ただでさえ緊張しているのに、
今何番目が走っているのかを、むやみに数える。』

『いつの間にか自分の番になっていて、走る場所についていた。
太陽は、ぎらぎら照っている。まぶしすぎてどうにかなりそうだ。』

『よーいのときに、もうしんぞうがばくばくして、あせがだくだくでた。
でもそれはいっしゅんのことだった。』

『最後の直線に入った。最後に力をふりしぼって走る。
手を思いっきりふって、足を地面にたたきつけながら走る。』

『もうゴール直前だ、と思ったとき、一番前の人に赤の先頭がとどきそうになった。
私は前よりももっと、手や足、体ぜんたいをふるわせた。』


普段は「悔しい」「嬉しい」と書かずに表情や仕草で表せと言っているが
今回のように細かく書けば、それらの言葉が浮いてしまわない。
ある人は、「落ち着きがなくなる」と書いた後に
『くつ下を上げたり、くつをぬいでくつの中にある砂を払ったり、
くつをきゅんきゅんにしめて くつをぬげないようにしたり』 と続けた。
これらの描写が「落ち着きがなくなる」を支えている。 人に自分の姿を見せている。

力作が多く出たので、廊下に張り出すことにした。
しばらくは熱気が廊下に充満しそうだ。


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