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表現① 心を映すコトバ [課題―描写]

ウチの教室にはNGワードが存在する。
文中に入れるな、という言葉である。
その1つが、『楽しかった』『嬉しかった』『面白かった』…である。

「楽しいと書くな、楽しさを書け」 場面を描くときに私がよく口にすることだ。
そもそも人は、自分の本心をそれほど頻繁に口にしない。相手も尋ねない。
にもかかわらず、文を書くとなると、なぜか自分の気持ちを「説明」しようとする。
なぜか。 説明するのが詳しく伝える手段だと思っているから。
あるいは、『楽しかった』と書いておけば、とりあえず自分の気持ちを伝えた気になれるから。

人が感じる楽しさなんて、千差万別。それを『楽しかった』の一言で終えられるはずがない。
何気なく参加したビンゴで賞品を手に入れた『嬉しさ』と、
なかなかつかめなかったシュートの感覚を捉えたときの『嬉しさ』を
同じ『嬉しかったです』で表してよいものだろうか?
それでは、書き手の体の奥から湧き出た思いを、読み手に伝え損ねてしまうことにはならないだろうか。

 

教室では、『嬉しい』『悲しい』『怒っている』などの感情を、
これらの言葉を用いないで表現するレッスンをすることがある。
感情をどう表現するか。簡単である。私達が日常使っているものを使えばいい。
私達は、感情をその人の顔の表情や仕草から読み取っている。
どう隠そうとしても、感情は体のどこかに零れ落ちる。
鉛筆をつかむ手。足音。視線の投げ方。 気持ちを反映したものが、どこかにある。
それを、書く。

大抵このレッスンをするときは、200字以内で書く、と制限をつける。
その中で人の感情を描き出すのだ。
長くても「えーっ」だが、短くても「えーっ」。
お約束と言わんばかりに、不満の声を上げる子がほとんどだが、原稿用紙半分くらいがちょうどいい長さだ。
高い集中力を必要とするから、時間的にもこれくらいが適当なのだ。

書き終わった後で、それぞれの文章を読み上げる。 そして、よい効果を挙げている部分を伝える。
誰が上手だったかを審判するのではない。
それぞれが工夫したことを取りあげ、認める。選び出した言葉の効果を伝える。
他の人の文章を耳にすることで、皆が自分にない表現方法に気付く。 触発される。 次は、と策を練る。
一つ終えたら続けて別の感情の表現に取り組むのだが、
どの人も、最初に比べて表現の幅が広がっている。そして、自信をつけている。

 


この描写レッスンには別のバージョンもある。
大雨・小雨を書き分けたり、暑い・寒いを描いたり。

今週はスポーツにおける『緊張の一瞬』を描いた。
いきさつは抜きにして、その瞬間だけを切り取る。そして、行動を起こす前で止める。
コツは、指先の感覚や、服のすそ・ボールの動きなど、細かなところに目を走らせ、表現することだ。
ありきたりな言い回しを用いるよりも、読み手の心に映像を結ばせ、リアルな感触を楽しませることができる。

2回目はその続きだ。緊張の一瞬が過ぎ去った後を描いた。
ただし、『緊張の一瞬』―例えば、ボールを蹴る、サーブを打つ、バットを振る―の結果がどうなったかは書かない。
人の姿で、どんな結果になったのかを読み取らせる。
そしてもう一つ。空や風、手にする物などに、自分の気持ちを託してみる。
空や風、物の描写で、人物の気持ちを表現するのだ。

 

全てを言葉に置き換えることはできない。
無理に言葉にすると、陳腐さだけが浮き彫りになってしまう。
それなら、説明しないでおけばいい。相手にゆだねてみればいい。
ただ、描く。相手に想像の余地を残す。
そうした方が、自分の複雑な感情が、相手の心の奥まで沁み行くように思う。

 

 ★★★ 最近読んだ本  ★★★

『感覚』『描写』に優れた表現が多く、今週読むにはぴったりの本でした。
見過ごしがちな『日常の感覚』に、鋭敏になりたくなります。
異世界ものが好きな女の子にお勧めです。
居場所を得るということ、前に進むということ。 今も昔も、この思いは変わりませんね。

メメント・モーリ

メメント・モーリ

  • 作者: おの りえん, 平出 衛
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本


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