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5分の散歩 [課題―描写]

久しぶりにいくつかのクラスで描写の課題を行いました。
5~10分ほどの散歩に出かけて、その間に感じたことを描く課題です。

岐阜のあたりも、日が暮れるのがずいぶん早くなりました。
6時近くとなれば、外はもう暗くなっています。
かといって、その暗さも寒さも、夜の8時を過ぎたくらいのものではありません。
夜のとっかかりの暗さと静けさを、体で感じて描いてもらいました。


ところで、教室でときどき笑い交じりに紹介するのが「ダメダメ作文」です。
ダメダメ作文その1は、「スケジュール作文」。

『私は今日、作文教室で散歩に出かけました。
外はもう暗かったです。
駐車場の方に行きました。
キンモクセイを見ました。
星が一つだけありました。
少し寒かったです。
そのあと、教室にもどりました。
楽しかったので、また行きたいです』

・・・とまあ、こんな感じ。
「したこと」をならべて、時々思い出したように「気持ち」を入れてみるのですね。
紹介すると、皆げらげら笑いますが「前に書いたことある」と正直に告白する人もいます。

ダメダメ作文その2「超特急作文」またの名を「新幹線作文」。

『今日、作文で散歩に行きました。
駐車場まで行って、キンモクセイを見ました。
寒かったので、帰りました』

スケジュール作文の短縮版。どーんと出来事を飛ばして書いて
数行にしてしまう作文です。
生徒が「飛行機作文」を発明しました『今日、散歩に行きました。すぐ帰りました。楽しかったです』
途中下車(降機?)できませんから、初めと終わりだけ。
「ロケット作文」は『今日、作文の先生と散歩に行きました』で、終わり。行きっぱなしです。


散歩をテーマにして作文を書くといっても、こういう作文では面白くありません。

読み手が書き手と一緒に散歩できるような、
その風景や寒さを共に感じられるような、
そんな文章を目指したいものです。


今回は一つ一つのものを丁寧に描くことを求めました。
店の明かりに目を留めたなら、書いてすぐに次のものに移るのではなく、
それについて、もう二・三文、費やしてみます。

自分が闇に抱いた印象があるのなら
それを説明するような「一言」(例えば、美しい・やわらかい等)を用いずに
その美しさ・やわらかさを強調して表現できる「何か」にこだわり
その姿(色・形・動き・輝き・肌触り・におい等)で描くようにしてみるのです。


たった五分の散歩でしたが、原稿用紙の上では、教室にもどってこれた人はいませんでした。
ゆっくりゆっくり歩を進めて描いていたので、授業時間が終わる頃になっても
「先生、まだキンモクセイのところまでしか行ってない」
「先生、まだ階段のとこ」
なんていうことになっていました。
もちろん、今回は風景を描くのが目的でしたから、それでかまいません。
正直言うと、飛ばして書くのは楽ですが、
周囲を眺めながらゆっくりと描くのは、かなり難しいのです。
それを知っている彼らは、「まだ、こんなとこ!」と誇らしげに伝えてくれました。


子ども達が工夫を凝らした表現を少し紹介します。


「少し手に力を入れて、目の前にあるげんかんのドアを押す。するとそこには、ゴーゴーという音と風が少しあって、 車のガスのようなにおいがする。部屋の方が静かだ。」
「そうじされたように秋は感じない。カサカサ音もせず。家の中の声すら聞こえない。」

「ぼくは、うでの力でとびあがり下を見る。水色の水が入ったバケツが、ポストのすぐ近くに、さみしくある。」
「階段の前に立つと、カメラのキタムラの白いライトに照らされている虫が、白く見えた。はげしくまわりを動き回っている。」
「キンモクセイの花の黄色が、やみに包まれるような色だった。光が消えてしまうような感じだ。歩くごとに少しずつかおりがただよってくる。」

「青を極限まで濃くしたような夜空の色。黒とはいえない。その空を西へたどると、じわっと黄色くなって、みかんの皮のようなオレンジっぽい空。次第に茶色っぽくもなる。」
「じゃりのある家のところで止まって西の空を見ると、まっちゃ色のようなくすんでフワッとした山の前にぼうがある。オレンジ色の空でぼうの半分ほどがかくれている。でもその透明の感じで、向こうの山が見ているようで、手でつかめそうだ。カーテンみたいに一まいめくると、その山がどっしりしているように見えてくる。」

「もどるとき駐車場で、空から流れ星のようなものを見つけた。初めて星が空から出て空にもどる瞬間をみた。」

 

いかがでしょう、秋の夜を感じていただけたでしょうか・・・?


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実況中継-トランプゲーム [課題―描写]

今週・来週といくつかのクラスで描写のレッスンをする。
こればレッスンだ。だから、わざと一つひとつの動作を引き伸ばして描く。
決してぽんぽんと話を前に進めてはいけない。

以前に実況中継をするように人の動きを描く課題を紹介した。基本的にはそれと同じだ。

まずは口頭で人の動きを描写してみる。
ポイントは、表情・姿勢・体の動きを「どのように」を表す言葉をつけて言うこと。
「大きく万歳をするように」「指先までぴんと伸ばして」「にっと笑いながら」「はずみをつけて立ち上がった」などのように、同じ動作を何通りもの言い方で表していく。
他の人がどこに目をつけて表現したかを知るのは、自分の幅を広げるよい機会だ。これはと思ったものは「どこがよいか」を伝えつつ、どんどん発表してもらう。

何に気をつけるべきかを捉えられたら、さて本番。今回は『ババぬきをする私たち』がテーマだ。
皆でババぬきをする。その様子を心のビデオに録画して、後で紙上で再生してもらうのだ。


隣の部屋に移動するところからスタート。
後で書かねばならないのだから、できるだけ皆の様子を見ながら動いてもらう。
歩き方や、座る位置も重要なポイントだし、交わす言葉も逃せない。
ババを見せ、シャッフルし、カードを配る。その短い動作の流れは、通常なら1行程度ですむところだが、あえて引き伸ばす。だから注意深く見ておくのだ。

「ええっ、おぼえてられないよ!」と、どの子も少し緊張気味。
いつもならあれこれ話すのに、話している間に忘れてしまうと思うのか、口数が少ない。それに私がどんどん話しかけていく。


いざカードを引くときになると、大抵の子は、様子を見ることなどすっかり忘れてババぬきに夢中になる。
「あぁ」とか「うぅ」とか言いながら、カードを引くたびに体をよじっている子もいるし、なぜか人にカードを引いてもらうときになると、首を前に突き出し猫背になり、小さく丸まっている子もいる。自分の体に注意が向いていない。だからおもしろい。それをみんな見ていられるかな、と思いながらゲームを進める。

ごく普通に行えば、ゲーム中は周囲を見ていないことが多い。
自分の手元に集中しやすいし、「どうやったらババを引いてもらえるか/引かずにすむか」を考えているから、「自分」が中心となる。
しかし、世界には自分だけがいるわけではない。他の人間の動きも書いてこそ、文章である。
自分の感覚も入れつつ、人の動きも描き出す。そうやって、空間や場面を作っていく。


書く前に、念のため私たちがした動作を確認する。

   ・隣の部屋に移動
   ・座る
   ・ババを確認
   ・カードを切る
   ・カードを配る
   ・カードを手に取り、同じ数のカードを捨てる
   ・じゃんけん
   ・ゲーム開始
   ・一番にあがったのは? 二番・三番・・・
   ・誰が負けたか

これら一つひとつの動作をできるかぎり見えるように描く。
座るときに、どの子がどんなふうに座ったか。誰が、どんな声で話したか。カードを切る手つきはどんなふうだったか。カードはどのような音を立てたか。
さらに細かく場面を区切っていって、人の姿と表情を「そのまま」書くようにする。
ゲーム終了までを時間内に書く必要はない。今日はレッスンだ。カードを配り始めるところで終わってしまってもいい。ゆっくりと細かく、映像化するように描くのを優先してもらった。


描写のレッスンを何度かしたことがある人は、コツをつかんでいる。隣の部屋に行くだけで原稿用紙1枚分を使い、まるまる3枚書いても「まだカード配っただけだよう!」と笑っている。
初めての挑戦の人は、それに比べるとジェット機なみに話の進みが速い。
実は、ある動作に留まって細かく書いていくのは、相当に難しい。慣れていないと、何に目をつけて書けばよいのかがピンと来ないのだ。

そこで、話の進みが速いな、と思った子の近くに行って、待て待て、とストップをかける。
そのとき○○さんは何してた? どんな声でどう話した? などとたずねて記憶を刺激する。何か言えたらそれを書いてもらう。ついでにそのことについてもう一文描写。一つの気付きを引き伸ばすやり方を口頭でまずは行う。そうして進め方のペースをつかんでもらう。


これはレッスンだ。
全ての作文において、全ての場面をこのように引き伸ばしていたら、読み手が飽きてしまう。
人と物、場面を描くコツがつかめたら、作文の一番の見せ場にこの描写を用いる。
映像化された文章は、人の共感を呼びやすい。
何より、描写した「人の動き」が「その人となり」を雄弁に語ってくれる。

豊かに描く力を養うための、一つのレッスン。
また数ヵ月後にテーマを変えて行うことにしている。


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描写のレッスン・応用編/『運動会』 [課題―描写]

前々回に紹介した描写のレッスン、今週はその応用編だった。
運動会の様子をドラマ仕立てで書くのである。

これについては、2007/10/02の『熱血!運動会』に詳しく書いたので、今回は割愛。
ともかく、一競技に絞って、引き伸ばして引き伸ばして描く。
体の動き、顔、声、空、風、光、土、旗・・・、人も風景も細かなところにまで目をやり、描写する。
大事なシーンは、コマ送りの要領だ。 一メートル、いや一歩ごと見せるつもりで臨む。


皆が知っているはずのものなのに、誰も書かないものがある。
そういう言葉は、意識して書こうとしなければ生まれない。
自分が何を見たのか、何を聞いたのか、体に刻まれた記憶を呼び起こして紙上で再現する。

こだわってこそ、描けるものがある。 
言葉一つにこだわる姿勢をもつこと、ものを見る目を養うこと。
えんぴつを持つ前にこそ、描写力を高めるカギがある。

 

今年も、非常に熱い作品が多く生まれた。
いくつかはいずれHPで紹介するつもりだが、ここでも少しだけお見せしたい。

 

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『とげとげの体そう服、見なれた土の色、くつの中のあせ、二千度オーバーかもしれないくらい熱い地面。頭に浮かぶアイス。五感がしょうがい物の入場をえん出する。』 (小4男子)

 

『体に、となりの人の手や体がぶつかる。ぼう引きは最初が肝心。スタートがおくれたらまるで、おかしの争だつ戦におくれてしまった人みたいになる。だから、手や体が当たっても体を引いたりしない。赤団の勝って
「イェーイ、オゥー!ヤッター!」
という声に暗い顔をして、小さく音のしない拍手をするのは、いやだからだ。』 (小5女子)

 

『ぼくはスタート地点に立った。ぼくは前しか見えなかった。前には一位のゴールテープが見えた。まっすぐよこに見えた。』 (小2男子)

 

『直線に入った。今ぼくは五位だ。もう一位はぬけない!一位は無理だ!でもせめて一人はぬくぞ!前のやつのせ中がどんどんさがっていく。オラァー!ゴールが一メートル、一メートルとせまってくる。ゴールまであと五十センチ。前のやつをぬいた!ぼくはよしっ!と思った。』 (小5男子)

 

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これまでにない書き方で場面を見せてくれた人がいた。
躍動する体を、心を、感じさせてくれた。

 


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描写のレッスン・・・『実況中継』 [課題―描写]

今週末のクラスから描写のレッスンを始めた。
今回は『実況中継』。 人の様子をまずは口頭で描写していく。

一番手は私。 クラスの中からモデルを一人選んで、その子の様子をどんどん言葉に置き換えていく。

「A君は机に突っ伏している。 左手の指先で自分の髪を一束つまみ、
うーん、そうだな、ひっぱるようにして触っている。
もう一方の手には、青いシャープペン。 軽くつかんで、あ、今、回し始めた。
肩が少し揺れている。 どうも笑っているらしい。 声を出さず、顔も上げず、A君は笑っている。・・・」

・・・というような感じで。 多少ずれはあってもいい。 とにかく黙らず、動きを捉えて言葉にする。

実況中継をされる方も、聞いている方も、けらけらと笑う。 
そりゃそうだ、やることすべて片っ端から描写されれば私だって照れくさい。
しかし、笑ってばかりでは授業にならない。 ここで少し気を引き締めて、動きを限定して描写してみる。 

例えば、椅子に座る。 単純な動作をして見せて、言葉に置き換える。
「椅子に座った。」・・・誰が、どんなふうに?
「先生が、ゆっくりと椅子に座った。」 いいね、様子を表す言葉が入った。別の表現を、次の人?
「先生が、音を立てずに座った」「上品ぶって座った」「手をひざにおいて、足をそろえて座った」
「スカートのすそを気にすることなく座った」
 そうそう! 同じ動作でも、言い表す方法は百万とあるよ。

どんどん探す。 比喩を用いたり、細かな動きを表したり。
こういうのでいいのか、とわかると子ども達の声も勢いがついてくる。

そこで、もう一度実況中継に戻る。 私がしていることを、できるだけ考え込まないで口頭で表す。
ひとり1分ほど。 顔の表情、手の動き、歩き方・・・表現のポイントがつかみやすいよう
はっきりとした動作を見せる。
その際、「~して、~で、」と続けてしまう人には、言い切る形を促し、
動作だけを言う人には、「どのように」を表す言葉を入れるよう励ます。

ひとり終わるごとに、その人がした工夫を皆に伝える。
リズムをほめたり、丁寧さを認めたり、「どんな」を表す表現を取り上げたり。
人の工夫を聞いて我が物とし、表現の幅を広げてもらうのだ。

 

一回りしてコツがつかめたのを確認したら、さて今度は・・・と、切り出す。
「一人ひとり話していると時間がなくなっちゃう。
 だから次は、紙の上で実況中継をしてもらうよ。
 まず、私がすることを見る。 それを憶える。 その後で、書く。
 私がすることは、10秒くらいのこと。 それを作文用紙半分以上に引き伸ばしてもらうよ。」

皆、うぇ~~~~っと声を上げる。 が、顔はもう勇んでいる。
視点をどこに置くのか、コツはもうわかったのだ。 
心はもう、できる!と言っている。

見せる動作は単純なものにしている。 今回は「本を読む」。
動きを見せてすぐに書いてもらってもいいのだが、取り組みやすいよう少し補助を入れる。
作文に写る前に私がした動作を分解して、ホワイトボードに書き出していく。
 ・廊下から部屋に入ってくる (どのように?) 
 ・椅子に座る (よいしょ、と言う)
 ・本を取り出す
 ・本を開く
 ・本を読み始める
これらの動作一つひとつを引き伸ばして書く。 すぐに次の動作に移らない。 とどまって描く。

 

実は、この「とどまって描く」というのは、とても難しい。
要点をまとめる活動ばかりしていると、どんどん先に流れてしまって踏みとどまることができない。

皆には、作文を書きなれていないと新幹線のような作文になるんだよ、と伝えた。
びゅんびゅん走ってすぐに目的地。 間のことはとんでしまって見ることができない。
だからそれよりも、鈍行列車に乗ったような作文にしよう、と言った。
周りの色も動きも見えるような、ちゃんと味のある作文にするんだ。 

作文の時間は10分から15分ほど。 しかし、時間内に最後まで書ききる必要はない。
途中の動作で時間がきてもいいので、とにかくできるだけ引き伸ばす。



ここでの作文は挑戦だよ、といつものセリフを口にする。
今日は描写のレッスンだから、やりすぎと思うくらいにやってみればいい。
試して、うまくいかなければ次に調整する。
やってみなくちゃ効果はわからないんだからね、とにかくこだわって書いてみようよ。 そう伝えた。

そんな私の言葉を聞きながら、皆、そういうものなのかな?という顔つきで書き始める。
書き始めたら、すぐに没頭。 頭の中でビデオを再生しながら言葉にしていく。

書き上げた作文は、読み上げる。 人の良い工夫を知ったら、もう一度違う動作で作文に向かう。
どの人も、二度目の作文は一度目のものより質が向上している。

 

中学生のクラスでも行った。
味のある描写をする中2男子が、今回も皆を驚かせた。
その箇所を少し引用する。

『(前略)・・・片手の五本の指をペッタリとくっつけ、めくっていく。紙が曲がりそうである。
数ページめくって、そのページにたどりつくと、目で字を追い始めた。目を上にしたり、下に動かしたりしている。
読んでいる最中も、本の端の方で、次のページをめくる用意をしている。
せん風機の音だけが、部屋の中を騒がしている。』

指先に注目して書いていたのに、突然最後に扇風機の音を入れて、静けさを強調した。
この“良い裏切り”に、皆が「うわ、やられた!」と、少し悔しそうな顔をした。

 

流れず、とどまる。 

幾度もいくども、皆に伝える。 ・・・そういう時間を持ってほしいと思うのだ。

 


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熱血!運動会 [課題―描写]

「今日のテーマは『運動会』だ!」
「うぇーーー。」「えーもう書いたし。日記で。」文句を言われるのは承知のうえなのでかまわず続ける。

「9月は『様子を描く』ことを中心にやってきたよね。今日はその総仕上げ。
実際に体験したことを書く!
もちろん、ここで書く作文なんだから、一味違ったものにしてもらうよ。
ということで!まずは、こんなん書いちゃつまらんよな~、だめだよな~という作文例を挙げてみよーう!」

『だめな作文』と聞いて、にやりとする人が数人。
あ、やばいかも、という顔あり、そんなん書かないよ、という顔あり。

「よし、いくよ?
『朝起きました。いい天気でした。
学校に着きました。 入場門から入りました。 体操しました。
最初の競技が始まりました。 次に○○ありました。 次は××です。
そのあと自分の競技です。 どきどきしました。 勝ちました。 よかったです。
○○しました。 △△しました。 ごはんたべました。 おいしかったです。
応援合戦がありました。 リレーがありました。 赤が勝ちました。
負けて悔しかったです。』
ど----うだ!!すばらしいだろーーーう!」
皆、ケラケラ笑っている。 しかし少し身に覚えのある人もいるようだ。苦笑している。

「これじゃさ、運動会の栞かなにか見れば十分だよねえ。したことだけを並べているんだもの。
誰が書いても同じになっちゃう。 その人の姿が見えないなんて、つまらないじゃない?
これを私は『スケジュール作文』と名づける! ダメダメ作文その1である!」

「知ってるよ、だから書くことを一つに絞るんでしょ!」「見えるように書くんだよねえ。」と、合いの手が入る。
「その通り! さすが、わかってるねえ。
だから今回の作文は、数ある競技の中から、自分が参加した競技一つに絞って書く!
しかも、テーマは 『熱血!運動会』 なのだ!」
「熱血ぅ?」
「そうだよ。自分の熱い思いを読み手に伝える作文にしてほしいんだ。」
熱い思いねぇ、と困る顔がちらほら。 全員が運動会を好きではないのは当然。
活躍できなかった子もいれば、運動会なんてないほうがいいと思っている子もいる。
しかし、読み手にどんな思いを味わってもらいたいかを意識して書くことは、とても重要なことだ。
漫然と事実を書き並べることから脱却するためには、必要な意識なのだ。


「一つの競技のことを書く、といっても、単純に書けば『走った、勝った』だけだよね。
これを引き伸ばす。 前にもやったよね、場面を分解して『誰が・どのように・どうしたか』を明確に記すんだ。
例えば、徒競走。これを分解してみよう。 どうなる?」
「ええと、スタートに立つ。」
「おっと。飛ばしたよ。」 
「ええ?スタートの前? なんかある?」
「あるよ~。『並ぶ』」
「は? そんなところから?」
「そうだよ。だって、レースは走る前から始まっているじゃない?
並んで自分の出番を待っているときさ、もし走るのが嫌いな人だったらどう?
一組、二組と走っていくでしょ。 一歩ずつ前に詰めるよね。
あのときさ、『うわぁ、だんだん近づいてくる。 みんな速い。 どうしよう、走りたくないな。
隣の子なんて余裕だもんな。 なんであんなに普通の顔できるんだろ…』 なんて思わない?
みんなの歓声とか聞きながら、ここから逃げたいと思って空見たり、応援席見たりしないかなあ」
あ、という顔で皆こちらを見る。

「じゃあ、走るのが得意な子は? 今年こそ一番だ、早く走らせろ、なんて考えながら
先の組をじっと見たりしてるかもしれないよね。 走る前からすでにレースは始まっている。
一人ひとり違う思いを抱えているんだ。」

その通り!と鼻息荒くする人は走ることに自信のある人。 今もスタートラインに立っているかのよう。

「じゃ、分解するよ。 『並ぶ』。 入場門から入るところから入れてもいいけどね。
次は?『待つ』『番が来て、スタートラインに立つ』『よーい』、で 『間』 だ。」
「間?」 
「そう、『間』。 作文には『間』も大事。 よーい、からピストルがなるまでの 『間』。
このときが一番集中するよね。 だからこの『間』もしっかり書く。
次は? うん、『パーン』の合図でスタート、『走る』『走る』『走る』!」
「走る?そんなに?」
「そうだよー、だって走っているのも、飛び出したときと中盤じゃ気持ちも見えるものも違うでしょ。
スタートで出遅れて、隣の子に前に出られた、その背中とかさ。
もう少しで抜かす、というときの腕の振りとか。
あるいは、先頭を走っていたら、後ろから足音が近づいてくるのに気づくとか。
ドキドキしてしまうポイントっていくらでもあるよ。 だから逃さず書く。」

このあたりから、皆、何を書けばいいのかがイメージがついてきたようだ。 体が前のめりになっている。
目はこちらを向いているのに、私を見ていない。 数日前の自分の姿を追っている。 

「そして『ゴール直前』『ゴール!』 いいよね、もう書ける?」
「書く、書く、早く紙!」


9月の初級・中級クラスでは描写力を高めることに重点をおいて課題を用意した。
これはその最終回の様子。
気持ちを体の動き、顔の表情、もしくは背景で伝える。
『誰が・どのように・どうした』を意識しながら、「どのように」の部分をできる限り膨らます。
前の時間には上記のことを分けて行った。 今回はそれを総合して、体験を書くのだ。
いつもは書いている最中にあまり声かけをしないのだが、今回は描写の幅を広げるために例を多く挙げた。
演出して書くのだから、遠慮は要らない。 派手にどんどん付け加えてみればいい。 そう励ました。

出だしにも工夫してみようと、小3女子が書いたものを紹介した。
『私の目の前には、黄色のつなが一本まちかまえている。』
この始まりに負けないように、と言ったので皆必死だ。
だが、背伸びしたので面白い表現が多く生まれた。
読むと一緒になって走っている気にさせられた。 以下に少し紹介する。



『一番が終わった。二番が…三番が…ただでさえ緊張しているのに、
今何番目が走っているのかを、むやみに数える。』

『いつの間にか自分の番になっていて、走る場所についていた。
太陽は、ぎらぎら照っている。まぶしすぎてどうにかなりそうだ。』

『よーいのときに、もうしんぞうがばくばくして、あせがだくだくでた。
でもそれはいっしゅんのことだった。』

『最後の直線に入った。最後に力をふりしぼって走る。
手を思いっきりふって、足を地面にたたきつけながら走る。』

『もうゴール直前だ、と思ったとき、一番前の人に赤の先頭がとどきそうになった。
私は前よりももっと、手や足、体ぜんたいをふるわせた。』


普段は「悔しい」「嬉しい」と書かずに表情や仕草で表せと言っているが
今回のように細かく書けば、それらの言葉が浮いてしまわない。
ある人は、「落ち着きがなくなる」と書いた後に
『くつ下を上げたり、くつをぬいでくつの中にある砂を払ったり、
くつをきゅんきゅんにしめて くつをぬげないようにしたり』 と続けた。
これらの描写が「落ち着きがなくなる」を支えている。 人に自分の姿を見せている。

力作が多く出たので、廊下に張り出すことにした。
しばらくは熱気が廊下に充満しそうだ。


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