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2018年夏期講座 本制作コースのご報告① [課題―創作文]

本制作コースについて。

今年は本科の夏の課題「本制作」に
本科生以外のかたにも参加いただけるようにしました。
多くのかたにご希望いただいて、
この夏はとてもたくさんの
「ストーリー生まれる瞬間」に立ち会うことができました。

最低でも5コマはお取りください、と募集時にお願いしたものの
「はたして5回で書ききれるのか?」の心配通り、
そんなに簡単には進みませんでした。

ストーリーを考えるのにやはり2コマは必要になってしまいましたので
残り3回で本文を書く・・・?
のはやはり難しく、追加でおいでいただいたかたも少なくありませんでした。
(・・・申し訳ありません!!)

ストーリーを考えるときの難しさ、
物語を書くときの難しさ・・・、
これらに取り組む中で働きかけたことを
今回はお知らせしておこうと思います。

ストーリーを練る際に一番心においてもらったのは、
「自分の都合で登場人物を動かさない」
ということです。
物事が動いたり、
人が行動を起こしたりするときには、
「そうしなければ(ならなければ)ならない理由」があります。
だれかが嘘をつくとき、
だれかが何かを隠すとき、
「その人だから」「そのときだったから」その行動が起きたはずです。

たとえば、ある女の子が作った話。
その子は、自分が参加した野外キャンプを舞台にすることにしました。

嘘のお話を書くとき、場所も出来事も人もみんなフィクションだと、
人と時と場の全てを決めていかねばなりません。
時間もかかりますし、想像するのにも限度があります。
ですから、自分が本当に知っている場所や出来事を使って、
その中に嘘の出来事を入れるようにするといいよ、とアドバイスしています。
学校が舞台の人は、自分の小学校の校舎をそのまま使います。
将棋やランニングを毎日している人は、その「こと」を用います。

話を戻します。

主人公の女の子は、キャンプに、大切にしているハンカチを持って行きました。
キャンプには初めて参加するので、
お守り代わりに持って行ったのです。
ところが、あるときそのハンカチが無くなってしまいます。
同じ部屋の女の子たちがみんな協力して、ハンカチ探しが始まります。
でも、見つからない。
困り果てたときに、一緒に探してくれていた子の一人が、
「ごめん、じつは・・・」とハンカチを差し出します。
かわいいハンカチだったので、女の子がいないときにちょっとさわっていたら、
女の子が部屋にもどってきたので、
つい、ぱっと、ハンカチをかくしてしまったのです。
ごめん、とあやまって、二人はより仲良しに。
初めはそういう話でした。

これでも、もちろんストーリーとしては出来上がっています。
でも、と気になることがあったので、彼女に聞いてみました。

「ねえ、この主人公の女の子は、ものすごく大切にしているハンカチを、自分のポケットに隠してしまった子をゆるせるの? ずっとみんなで探していたんだよね? その間、その子は知らないふりして、つまりうそをついて探すふりをしたんだよね。そういうことを忘れて、その子と仲良くなれてしまう人なの?
女の子は、主人公=自分、ととらえていたので、「うーん」と少し考えてから、
「うん。私はあんまり気にしない。」
「大事なハンカチだったのに?」
「うん」
ハンカチはもどってきたし、そのほかで楽しいことをその子とできたら、いいのだそうです。
なるほど、と私は言って、この主人公の子は、そういう性格のひとなんだね、じゃあそういうふうにえがいていかないとね、としました。

さらに、
「でさ、ハンカチを隠した子のほうなんだけど。」
「うん。」
「この子はどんな性格で、どんな行動をとりやすい人だったっけ。このハンカチは、友達が大事にしているって知っているんだっけ?」
「うん。その前に『お守りだ』って話をしてある。」
「じゃあ、ひとが大事にしているものを、いくらあわてているからって、ぱっと自分のポケットとか、後ろとかにかくすかな。〇〇ちゃんなら、どう? さっと隠す? どうする? もし私なら・・・うーん、ぱっと手を離す?くらいなかな。驚いて手を離す、のはあるだろうけど、にぎったまま、ポケットにつっこむって・・・、結構、むずかしいというか・・・、そうしやすい人でなければ、できない気がする。〇〇ちゃんは、どう?」
「あーーーーーー。うーーーん。そうだなぁ・・・。」
しばらく考え込んだのち、彼女は顔を上げて言いました。
「・・・できないかも。」
「この女の子はできる? そういう人?」
「ううん、ちがう。そういうんじゃない。」
「そうか。しないか。じゃあ、どうしよう? その子にはできないはずのことを、話として都合がいいからって、させちゃうことはできないよ。この子たちは、本当の人間だと思ってみて。なにか行動するなら、その人だったら、どう行動するかと考えてみるの。私たちだって、だれか神様みたいな人が、自分らしくない行動をとらせていたら気持ち悪いでしょう? その人だからすること、を考えてみてね。」


彼女は、その後一人でずっと考えていました。
どうすることが、その子たちの「自然」な動きなのか、ずっと考えていたようです。
しばらくして、私が様子を見に行くと、
話はがらりと変わっていました。
話の中のこの子は、人のものを隠すような子ではない、と思ったようです。
でも、大事なハンカチと知りながら、
「貸して」とは言える、あんまりこだわりのない子だと考えたようで、
川遊びのときに「ハンカチかして」と言い、
そのときうっかり、川に落としてしまう・・・という展開になっていました。

私がうれしかったのは、
「先生に文句をつけられたから変えた」
というわけではなく、
「本当にあの子なら、私なら、どうするか」と、
生きた人間として、人の行動を考えたのが見えたからです。
私を見つめ返す、きっぱりとした彼女の目で、
登場人物がどういう子かを迷いなく話す彼女の声で、
それがわかりました。

ストーリーは、ただつじつまが合っていればいいというものではありません。
「人」を生かすものであってほしいと思います。
そして、自分が描きたい「何か」(心の変化であったり、人と人の関係であったり)をもって
作り出してほしいと思っています。

「読み手」の立場から「書き手」の立場に移って
物語と向き合う。
その中で、知ってほしいと願うのは、
物語には、人の心とテーマとがあるということ、
そしてそれらは、文字として表されておらず、
むしろ、人の行動や場面の描き方に織り込まれているのだ、ということです。
書き手となったからこそ、味わう「書き手の苦労と工夫」。
今後の表現に必ず生かされていくと思っています。

次回は、物語の本文を書く際の働きかけについて、です。


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